①研究の背景

我々の通う浜松工業高校は、部活動が盛んです。よって、部活動に起因するけがも多く起こると考えられます。特に、筋肉に関連したけがは運動部において多く起こる事象です。したがってけがを未然に防ぐ方法を考えたいと思います。

②仮説とねらい

患部に異常がある場合、患部のインピーダンスには変化が生まれる。その変化を見つけることでけがの早期発見を行う。

③研究内容

一口にインピーダンス測定といっても、筋肉に電流を流そうとすると、本来流そうとした部位以外にも電流が流れてしまうことが考えられます。その状態では正しいインピーダンスを測定することはできず、筋肉の損傷について調べることはできません。また、直流電源ではコンデンサコイル成分について調べることができず、仮に骨などによってコンデンサ(C)成分がある場合、それを考慮して測定することはできません。
そこで、我々の研究では
 ①測定したい部位のみに電流を流す方法
 ②交流を使用したインピーダンス測定

この二点について研究を行おうと考えます。

技術的知識

交流電圧は、周期的に電源のプラスマイナスが変化します。よって単純に直流回路で抵抗値を求めるより複雑な手順が必要になります。

下の図で示すように、交流回路においては位相が遅れたり進んだりします(曲線の位置が前になったり後ろになったりすること)。
コンデンサ、コイルに青い曲線の電圧を入力したとき、それぞれの両端電圧は、コンデンサでは灰色の曲線に、コイルでは橙色の曲線で表されます。
このずれを位相差といい、その差を角度で表します。

正弦波交流の例

インピーダンスは、コンデンサとコイルと抵抗をそれぞれたしたものです。ただしその計算には位相のずれがあるため単純な足し算では求められません。そこで三平方の定理を使用し、抵抗の大きさのみを求めます。また、インピーダンスは複素数や角度を使って表すことができます。

導体に電流を流すと、その周囲には磁界が発生します。これを利用して、導体を複数回巻くとコイルができ、このコイルには以下のような磁束(水色)が発生します。

同様に、導体に磁束(水色)が交差すると、その導体には磁束を中心とした渦電流(緑色)が流れます。

これらを利用すると、電流の流れている導体に磁束を加え、その導体に渦電流を生じさせることで導体を流れる電流を変化させることができます。

⑤実験などについて

まず、磁界によって渦電流が生じるかを実験しました。

生じる電位差が思っていたよりも小さかったので、電圧、電流を大きくするアンプと呼ばれる機器を接続し、同じ実験を行いました。

十分に電位差が生じたと考えたので、電流を流している食塩水に磁界をかけてみることとしました。

まったくもってうまくいかなかったので、うまくいかなかった原因をで考えました。
その後、解決をするために四つの方法を考えました。

まず、十分と思われた磁界の大きさも、打消しを行うにはまだ足りないと思いました。そこで、調整用の反転増幅器二つと、より大きい電力を生じるアンプを設計し、自分たちで制作を行いました。

次に磁界と定電流に位相のずれが生じていると考えたので移相器を製作し接続しました。

また、測定できる電圧が小さく、オシロスコープ上の波形がぐちゃぐちゃになってしまったので、減算増幅器をつなぎました。

これらの対策を施すことで無事にきれいな波形を出すことができました。

最終的な回路構成は

きれいな波形を出すことができたので、打消しを行うことでインピーダンス計測に変化が生まれるかどうかを調べました。

磁界なし1.6Ω
磁界あり2.7Ω

結果、御覧のとおり磁界をかけることでインピーダンスの変化をよりしっかりととらえることができました。

⑥今後について

今回の研究では最終的な目標である「生体インピーダンス」の測定までは行うことができませんでした。しかし、患部以外にも流れてしまう電流を、患部のみに流す方法について深く研究を行いその見通しが立ちました。
今後については、より人体に近い実験モデルを利用し、同じようなことができるかであったり、けがの種類によってインピーダンスの変化の仕方に違いがあるかなどについて調べてみたいと思います。

最後に、本研究にご協力いただいた電気科の先生方、鉄心の作成にご協力いただいた機械科、電子天秤を貸していただいたシステム科学科の皆様に感謝いたします。
ありがとうございました。

 〜追伸〜                                          令和5年1月20日に開催された「令和4年度 静岡県高等学校工業教育研究会 第73回生徒研究発表会」に浜工の代表として参加しました。

結果は、最優秀賞にあたる「教育委員会 教育長賞」および「静岡県工業高等学校長会 会長賞」を受賞することができました。                                    困難な研究テーマへのチャレンジだったこともあり、大変嬉しい受賞でした。